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大阪家庭裁判所 昭和37年(家)5361号 審判

申立人 川口キヨノ(仮名)

相手方 高石洋三(仮名)

主文

下記建物にかかる相手方の賃借権を、賃貸人大阪府の承諾を得ることを条件として、相手方から申立人に譲渡する。記

大阪府茨木市総持寺○○○番地府営住宅七七号

(木造瓦ぶき平家建二戸建住居の一戸建坪一二・五坪)

理由

(申立の要旨)

申立人と相手方とは、昭和一九年七月一四日に婚姻し、昭和三六年一二月七日に、双方間の子女四名の親権者を申立人と定めて協議離婚したものであるが、この協議離婚をするにいたつた原因は、相手方が怠惰で、かつかけ事を好み浪費をし、度々家出して申立人らに対する扶養義務を果さなかつたことに在るもので、申立人は、現在月収二〇、〇〇〇円くらいの所得により子女四名を扶養しているが、主文掲記の府営住宅の貸借人が相手方の名義となつているので、離婚にともなう財産分与として、この賃借権を、相手方から申立人に対し譲渡することの審判を求めるべく、本申立に及ぶ。

(判断)

一、当庁昭和三三年(家イ)第六九号事件の記録、当庁昭和三六年(家イ)第二一七五号事件の記録及び当庁昭和三七年(家イ)第一三四九号事件の記録並びに申立人本人審問の結果を総合すると、

(イ)  申立人と相手方とは、昭和一六年二月頃に事実上の婚姻関係に入り昭和一九年七月一四日に婚姻届をして法律上の夫婦となり、昭和三六年一二月六日に協議離婚したものであるが、双方間に、

長女 幸子(昭和一七年一月九日生)大阪地方検察庁勤務

二女 咲子(昭和一九年一〇月三日生)茨木高校三年生

長男 求 (昭和二三年九月一六日生)茨木市東中学校二年生

三女 昭子(昭和二五年三月一九日生)同上一年生

四女 久子(昭和二七年五月一八日生)茨本市三島小学校四年生

の四女一男があり、協議離婚の際、これら子供達の親権者は、すべて申立人となつた。

(ロ)  相手方は、性来怠惰で勤め先に永続できず、昭和二八年頃からパチンコなどの勝負ごとに凝り始め、収入も大方家計に入れず、しばしば数ヵ月にわたり家を空けたりして申立人と争ごとが絶えぬので、申立人は昭和三三年一月に、当庁に離婚調停の申立を行つたが、このときは相手方との間で和諧がととのい、事件を取下げたものの、相手方の行状は改まらないので、昭和三六年一〇月にふたたび当庁に離婚調停を申立てたところ、相手方が協議離婚を承諾したので、事件を取下げ、上記のとおり協議離婚届出をした。

(ハ)  当事者が内縁関係に入つた当初において、双方名義の財産はほとんどなく、守口市三郷町で借家に住み、相手方は、当時同所の日本通運に勤めていたが、その後相手方が職場を代えるにつれて住宅も転々しているうち、昭和二六年一一月に申立人の肩書住所の住宅が抽せんに当選し、相手方名義でこれを借受け、一家は当時からここを住居と定めておるものであるが、上記のごとく相手方が家計を省みないため、昭和三三年一月に離婚調停を申立てた当時、この住宅の賃料が数年分滞納しており、申立人は、相手方と連滞してこの延滞賃料を分納することを府当局に約諾し、からくも強制執行を免れたものであるが、その後、申立人はこの延滞賃料の分納を努力しながらも、後記の(ニ)(ホ)ごとき事情も加わり、いまだそのいく分か滞納されている。

(ニ)  相手方は、上記協議離婚の前頃から、例のごとく家を空けていたが、協議離婚後申立人が子供達と同居してこの住宅を使用することを暗黙に諒承していたにかかわらず、昭和三七年二月に突然この住宅に戻つて、その貸借名義が自己に在ることを理由に、申立人に立退方を要求し、乱暴したりなどするので、申立人は、民生委員の立会のもとに、相手方と話合いしたが、相手方は、永年間自ら賃料支払の義務も履行していないにかかわらず、あくまで形式的な自己の権利を主張して止まず、申立人の職場まで出向いて悪口を言つたりするので、申立人は、同年四月当初子供達を残して家出をし、大阪市東区○○三丁目大阪福祉○○協会に、住込みで働くこととした。

(ホ)  そうして、申立人は、相手方の生活状態をうかがつていたところ、相手方は、相変らず、十分働きにも出掛けず、申立人が残して来た身廻品や、子ども達の衣類まで入質したり売払つたりし、生活の資に当てながら、さらに近所の日用品の商店や、米屋にまで借金をして、子供達は食事も十分与えられていない状況であるので、申立人は、幸子に対し月一〇、〇〇〇円の生活補助金を与えながら、一方同年七月一一日当庁に、相手方を相手取り子供引渡の調停を申立てたところ、同調停の第四回期日(七月三一日)に、相手方は、自己の非を認めて、申立人が元々どおり府営住宅に戻つて子供達と同居することを承諾し、自らは、数日後この住宅を出て行衛をくらまし、現在その所在は皆目見当が立たない。

(ハ) 申立人は、昭和三〇年頃から、理解ある相手方の姉高石マサエからの若干の生活援助はあるとは云え、ほとんど独力で子供達の養育監護を行つて来たもので、現在は、上記○○事業協会において月収約二〇、〇〇〇円の所得があり、幸子の給料及びマサエの援助により、漸く生計を維持しつつ府営住宅の延滞賃料、及び相手方が近所に残した借金の支払などに追われている状況である。

などの事実を認めることができる。

二、相手方は、上記のごとくその所在すら不明であつて、現在の生活状態を詳らかにすることができないが、多分にその資産としては上記賃借権をおいて他に存在するとは想像できないけれども、これが権利は、ほとんど形式的に相手方の名義があるに過ぎず、実質的にはもつぱら申立人の努力によつて維持されて来たものである。

三、以上かれこれの事情を考察し、上記貸借権は、これを離婚にともなう財産分与として、相手方から申立人に対し譲渡せしめるを相当とするので、本申立を認容し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 水地巖)

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